2012-05

午後

午後に


鳥のように海を渡ってきた風は 
帆柱にとまって羽を休めている 

つかのまの凪の午後に 

緑色のインクで書かれた手紙が 
差出人を探す旅に出る 

遅くはないだろう まだ 
早すぎはしないだろう いつだって 

行先は たどりついてようやくわかる 
こんなに近いのに 気づかなかったんだ 

そこにいたのに 見えなかったんだ  

Vieni sul mar

流木


名前は思い出せない 
どこにでもあるような裏通りの店 
明るいうちは濃すぎるコーヒーを出し 
暮れれば薄くはない酒を出す 
そんな騒がしくも懐かしい店の片隅で 
老いたアコーディオン弾きがうたっていた 
錆びた声で 船乗りの歌を 

のびちぢみする波が潮風をよびこみ 
砂でざらつくテーブルには帆柱の影が落ちて 
カードは月に剣 ヒトデ 水晶 それに白い花・・

どこかで見た? 
そんな気がするだけだね 
波の隙間におりたたまれた記憶は 
そのまま朽ちていく流木 あるいは 
ひらけば音もなく崩れる物語の1ページ 

おいでと歌う声に背を向け 
扉を押して店を出れば 青い闇に沈む見知らぬ町 
よそよそしさに一瞬たじろぎ 
でも踏み出せばまたその足から同じ闇に染まっていく 

あの夏は遠く 
海はもっと遠い 

labyrinth

labyrinth



抜け道を抜ければそこは袋小路 
近道はたいてい遠回りだ 
世界のどこかでいつも誰かが補修工事中 
(きみか 僕か 両方か) 
でこぼこの穴を言葉で埋めながら走る 
どこへなんて考える余裕がない 
いつか言葉を使い果たしたとき 
はじめて気づく 戻れないかもしれない 

いったいどこへ行くつもりだった? 
顔を見合わせ 黙って首を振り 
すこし肩をすくめ すこし笑う 
足元には銀の砂 
ポケットには壊れた時計 
ずっとここにいたんだ 
ヒアシンス色の空に 
騙されて 


旅するウサギ

旅する2




小川の水の はじまりの 最初のしずく 見たいんだ 
待ちかねていた 雨あがり 扉をあけて 出かけよう 

いろんな道を 歩いたよ いろんな人に 出会ったよ 
言葉や笑顔の ひとつずつ
大切な宝物 かばんにつめこんで 


ららら 旅はつづく 地球はまわる  
どんなときでも 日はのぼる  
ららら 旅はつづく さびしくないよ  
きのうから あしたへと 歩いていく  


展望台の てっぺんで 大きく息をすいこんで 
小さく見える あの場所の 小さなぼくに 手を振ろう 

知らない町の 絵葉書が きみのところに 届くころ 
ぼくはめざしてる 次の町 
いちばんのおみやげは 心にしまってく 


ららら 旅はつづく 地球はまわる  
どんなときでも 日はのぼる  
ららら 旅はつづく さびしくないよ  
きのうから あしたへと 歩いていく  

**
だから 旅はつづく 地球はまわる 
そんなことさえ 知らなかった 
だから 旅はつづく ひとりで行くよ 
きのうから あしたへと 歩いていく 


(C)閑猫堂2012

bird song

birdsong2


その鳥たちはとても臆病だ
いつも高い枝にとまり
すぐに飛び去ってしまう

だけど きみは手を伸ばした
せいいっぱい背伸びして

それがいい そうすればいい  
届かなくても 何度でも

いつか おりてくる鳥がいる
きみの指先でさえずりはじめる



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